妊娠・育休と職場
看護師のマタハラとは何か。定義と、相談できる窓口の順番
更新 2026年10月23日読むのに約7分
マタハラは、法律の言葉ではなく、妊娠・出産・育休などに関する職場の言動を指す通称です。何がその範囲に入るのか、似ている不利益取扱いとどう違うのか、相談できる窓口の順番を整理します。
妊娠したことを、職場で責められたような気持ちになったのかもしれないね。
ひとりで抱えないで、順番に整理してみよう。
「マタハラ」は、法律ではどう呼ばれているか
マタハラ(マタニティハラスメント)という言葉は、法律には出てきません。法律が事業主に求めているのは、「妊娠・出産等に関するハラスメント」と「育児休業等に関するハラスメント」を防ぐ措置です。前者は男女雇用機会均等法、後者は育児・介護休業法が定めています。2026年10月施行版の条文では、前者は均等法15条、後者は育児・介護休業法25条にあたります(古い解説には、均等法11条の3などの旧番号が残っています)。
事業主、つまり病院やクリニックの運営側は、方針を明確にして周知する、相談窓口を決める、事後に迅速かつ適切に対応する、プライバシーを守る、相談したことを理由に不利益な取扱いをしない、という措置を講じる義務があります。義務を負うのは、言動をした個人ではなく、職場の運営側です。
厚生労働省の指針は、上司または同僚から行われる言動を、次の2つの型に整理しています。
- 制度等の利用への嫌がらせ型:産前休業、軽易な業務への転換、時間外・深夜業の制限、母性健康管理措置などの利用を、請求しないよう言う、取り下げるよう言う、利用したことで繰り返し嫌がらせをする、など
- 状態への嫌がらせ型:妊娠したこと、出産したこと、つわりや切迫流産などで働けない・能率が落ちたことを理由に、繰り返し嫌がらせをする、など
どちらの型にも、解雇や不利益な取扱いをほのめかす言動が入っています。同僚による言動は、「繰り返し又は継続的に」と書かれています。一度のことばが、すぐにすべてマタハラになるという意味ではありません。
言葉の意味が分かると、自分の場面を当てはめやすくなるよ。
「これは入らない」とされる言動と、一方的な通告
指針は、業務分担や安全配慮の観点から、客観的にみて業務上の必要性に基づく言動は、マタハラに該当しないとしています。たとえば、通院の日をどう組むかを職場が相談するのは、それだけではハラスメントではありません。厚生労働省のパンフレットは、調整できる休業の時期について、本人の意向を確認することまでは禁止されないとしています。
一方で、本人の意向をくまない一方的な通告は、ハラスメントになる可能性がある、とも書かれています。意向を聞かれたのか、決まったことを告げられたのかは、あとで振り返るときの分かれ目になります。看護の現場では、夜勤の穴や人員のやりくりが背景にあることも多く、「その場の発言がどちらにあたるか」は、内容と経緯を見て個別に判断されます。この記事では、個別の言動がマタハラにあたるかどうかは判断しません。
- 言動を受ける回数・場面を覚えておく
- がまんする「自分が悪い」と思う
- 体調・気持ちが落ちる眠れない、食べられない
- 相談しにくくなる孤立していく
同じ輪の中にいると、気づけないことがあるよ。
似ているけれど別のもの:不利益な取扱いの禁止
言葉による嫌がらせとは別に、法律は、妊娠・出産・産前産後休業の請求や取得などを理由とする、解雇その他の不利益な取扱いを禁止しています(男女雇用機会均等法9条)。降格、減給、賞与や人事考課での不利益な評価、不利益な配置の変更、契約を更新しないこと、退職や正社員からパートへの変更を強要すること、などが例に挙げられています。婚姻や妊娠、出産を退職の理由として予定する定めも、してはならないとされています。
厚生労働省は、妊娠・出産等の事由を「契機として」、事由の終了から1年以内に不利益な取扱いがされた場合は、原則として「理由として」いる、つまり法違反にあたると解しています。ただし、業務上の必要性が上回る特段の事情や、本人の同意に合理的な理由が客観的にある場合の例外があり、個別に判断されます。妊娠中と出産後1年以内の解雇は、事業主が妊娠・出産等を理由としないことを証明しない限り、無効とされています。産前産後休業の期間とその後30日間の解雇は、労働基準法19条で禁止されています。
マタハラの言動と不利益取扱いは、重なることがあります。産休や育休の話を出すたびに退職をほのめかされ続けて、退職届を書いたような場合です。本人の真意に基づかない同意は、不利益取扱いにあたりうるとされています。退職届を出す前に、下の窓口で確かめてください。退職を決める前に確かめたいことは、妊娠で辞める前に確かめることにまとめます。
相談の順番と、記録の残し方
厚生労働省は、ハラスメントを「個人の問題ではなく会社の問題」としたうえで、受け流すだけでは状況は改善されないと説明しています。順番は、まず意思を伝える、次に社内の相談担当者や信頼できる上司に相談する、会社で対応してもらえないとき、または社外で相談したいときは、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)や総合労働相談コーナーへ、という並びです。意思を伝えるのが難しい相手や状況では、無理に言わなくてよいと考えます。いきなり社外に相談することも、否定されていません。
- 社内の窓口:事業主は、窓口を定めて周知することになっています。該当するか微妙なときでも広く相談に応じることが、指針に書かれています。クリニックなど規模が小さい職場で、窓口が実際には動いていないと感じたら、外の窓口に進めます
- 都道府県労働局の雇用環境・均等部(室):妊娠・出産等に関するハラスメントの防止措置などをめぐる労働者と事業主のトラブルについて、助言・指導・勧告の援助や、調停を申し出られます。平日の日中のみで、相談は無料、匿名でも可、と案内されています。電話番号は都道府県ごとなので、厚生労働省のリーフレットの一覧で確かめます
- 総合労働相談コーナー:全国の労働局や労働基準監督署内にあり、予約不要・無料です。土日祝日と年末年始は閉庁です。開いている時間はコーナーごとに違うので、厚生労働省の一覧で確かめます。マタハラの相談は、雇用環境・均等部(室)が専門の窓口です
- 気持ちがつらいとき:よりそいホットライン(0120-279-338、24時間・無料)が、悩み全般の相談に応じます。職場の相談とは別に、こころのことを話す場所として使えます
援助や調停を申請したことを理由とする不利益な取扱いは、禁止されています。調停では、調停委員が調停案を作り、当事者に受け入れるよう勧めることができます(均等法28条)。勧めに応じるかは当事者が決めるもので、解決の見込みがなければ打ち切られます(同29条)。裁判の判決とは違い、「中立な専門家が間に入る話し合いの手続き」と受け止めてください。手続きの申請期限や費用は、窓口で確認します。日本看護協会も、まず職場の窓口、難しければ外部の窓口、という案内をしています。
- 記録する日付・場所・言葉
- 社内で話す窓口・信頼できる上司
- 外の窓口へ労働局・総合相談
- 援助・調停窓口で案内される
段階は飛ばしても、戻ってもだいじょうぶだよ。
妊娠中の働き方の制度は、妊娠中の業務と配慮に、職場での人間関係の見分け方は、ハラスメントの種類にまとめます。つらさが強いときは、記録より先に、休むことを選んでください。
長い話を、最後まで読んだんだね。おつかれさま。
今日は、記録の1行が書けたら、それで十分だよ。
よくある質問
師長に「人が足りないから、夜勤は続けてほしい」と言われました。
妊娠中の人が請求すれば、事業主は深夜業をさせてはならない決まりです(労働基準法66条)。請求しないよう言う、取り下げるよう言う言動は、指針で嫌がらせ型の例とされています。人員の調整について意向を聞くこと自体は禁止されていないので、請求は書面で出し、言われた言葉と日付を記録して、雇用環境・均等部(室)に相談できます。
同僚の「お互いさま」の言い方も、マタハラですか?
指針は、同僚による請求の阻害や取り下げの要求を、「繰り返し又は継続的に」行われる場合の例としています。一度の言葉で決めつけず、内容と回数を記録して、窓口で相談してください。
社内の窓口に相談すると、不利益な扱いをされませんか?
相談したことを理由とする解雇その他の不利益な取扱いは、法律で禁止されています。ただし、報復がないという保証にはならないため、不安なときは、先に社外の窓口で相談の仕方を確かめてもかまいません。
出典・参考(公的な情報)
- 男女雇用機会均等法 第9条・第15条・第22条〜第29条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年10月1日適用)(厚生労働省)
- 事業主が講ずべきハラスメント対策パンフレット(令和8年7月作成)(都道府県労働局雇用環境・均等部(室)・厚生労働省)
- 職場におけるハラスメントの防止のために(厚生労働省)
- 職場でのトラブル解決の援助を求める方へ(厚生労働省)
- 労働基準法 第19条・第64条の3・第65条・第66条・第67条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 総合労働相談コーナーのご案内(厚生労働省)
- 電話相談窓口|困った時の相談方法・窓口|まもろうよ こころ(厚生労働省)
- 看護現場におけるハラスメント対策(公益社団法人 日本看護協会)
法令・制度は、上の出典を 2026年10月23日 に確認して書いています。改正されることがあるので、手続きの前に、最新の内容を各窓口で確かめてください。
つぎに読む
この内容は一般的な情報で、医療的な診断や個別の助言ではありません。つらさが続くときは、公的な窓口や、かかりつけ医・産業医に話してください。