異動・転勤
看護師は異動・転勤を断ることができる?命令の根拠と確かめる4つのこと
更新 2026年10月23日読むのに約6分
異動や転勤の内示は、断れるのかどうかが分からないまま、返事の期限だけが近づきます。判断の出発点になる4つの確認点を、公的な説明に沿って整理します。
「断れるのかな」って、まず調べに来たんだね。
答えは一言では言えないけれど、見る場所は決まっているよ。
異動と転勤の言葉の違いと、法律の置き場所
病棟や診療科が変わるものを異動(配置転換)、勤務地が変わるものを転勤、と使い分けることが多くあります。転居を伴う転勤は、生活への影響が大きいことが、後で見る不利益の判断にも関わります。ここでは、どちらも「会社が、働く場所や仕事の内容を変える命令」として、同じ枠組みで見ます。
大阪労働局のQ&Aによると、転勤に関する規定は労働基準法にはなく、民事上の問題として扱われます。労基法違反の疑いなら労働基準監督署、民事上のトラブルなら総合労働相談コーナー、という窓口の案内もあります。「この条文に反するから断れる」「この条文があるから断れない」という単純な線はなく、契約と事情で、個別に判断されます。
厚生労働省のモデル就業規則(令和7年12月版)の第8条は、業務上必要があるときは就業する場所や業務の変更を命ずることがあり、労働者は正当な理由なくこれを拒むことはできない、という規程例です。解説は、変更がない旨の特別な合意などがない限り、会社が変更することは可能、としています。ただし、これは規程例で、勤務先の就業規則そのものではありません。
命令が通る場合と、争いになりうる場合
判断の枠組みとして、厚生労働省の「確かめよう労働条件」には、東亜ペイント事件(最二小判S61.7.14)が載っています。入社時に勤務地を限定する合意がなく、労働協約と就業規則に転勤命令の定めがあり、転勤が実際に頻繁に行われていた場合、会社は個別の同意なしに勤務場所を決められる、という整理です。
そのうえで、業務上の必要性がない場合、不当な動機や目的がある場合、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる場合などの特段の事情があれば、権利の濫用にあたるとされています。業務上の必要性は、余人をもっては容易に替え難いほど高度なものに限られない、とも説明されています。
命令が通りやすい場合
勤務地や職種を限定する合意がなく、就業規則に命令の定めがあり、業務上の必要性があって、本人の不利益が通常の範囲にとどまるとき。
争いになりうる場合
勤務地や職種を限定する合意がある、必要性がない、ほかの不当な理由がある、不利益が通常甘受すべき程度を著しく超えるとき。
大阪労働局のQ&Aも、同じ整理です。勤務地を完全に限定して契約しているなら、同意なく変更できないのが原則。限定していない場合は、就業規則などに転勤を命じる場合があると明記されていることと、業務上の必要性があることの2つを満たせば、特別な事情がない限り、原則として拒否できません。業務上の必要性がない、人員削減などほかの不当な理由がある、労働者に特別な事情がある、といった場合は、無効になることも考えられる、とされています。
職種についても、似た整理があります。滋賀県社会福祉協議会事件(最二小判R6.4.26)は、職種や業務内容を特定の職種に限定する合意がある場合、使用者は、個別の同意なしに、その合意に反する配置転換を命じる権限を持たない、とした判決です。ここで気をつけたいのは、「看護師だから職種限定」とは言えないことです。限定の合意があるかどうかは、契約書や労働条件通知書、採用時のやりとりなど、個別の事実で決まります。
条文が少なくて、迷子になりそうだよね。
次の節で、手元の書類から順に見ていくよ。
内示を受けたら、確かめる4つのこと
枠組みを踏まえると、内示のあとに確かめることは、4つに絞れます。1つ目は契約書や労働条件通知書の記載、2つ目は就業規則の異動の定め、3つ目は会社がその異動を命じる理由、4つ目は自分の側の不利益です。順番に見て、事実を書類に落とします。
- 契約書を見る勤務地・職種の記載
- 就業規則を見る異動の定めの有無
- 理由を聞くなぜ自分か、いつまでか
- 事情を整理する家族・体調・通勤
書類と事実がそろってから、返事を考えよう。
1つ目の書類を見るときに役立つのが、2024年4月の改正です。労働基準法施行規則の改正で、2024年4月1日以降に結ぶ(更新する)労働契約では、雇い入れ直後の就業場所と業務に加えて、その「変更の範囲」も、労働条件通知書などの書面で示すことが会社に義務づけられました。「変更の範囲:会社の定める事業所」のように広く書かれているのか、「○○病院に限る」と限定されているのかで、内示の受け止め方が変わります。2024年3月以前に入った人は、記載がないこともあるため、就業規則とあわせて確かめます。
内示の場で、すぐに返事を求められても、その場で結論を出さず、「検討します」と答えて持ち帰る進め方があります。返事の期限を聞き、その日までに上の4つを確かめます。
家族の事情については、育児・介護休業法の第26条に、事業主が就業場所の変更を伴う配置の変更をしようとするとき、子の養育や家族の介護が困難になる労働者がいれば、その状況に配慮しなければならない、という定めがあります。これは配慮の義務で、転勤を禁止したり、異動を免除する権利を与えたりする条文ではありません。ネスレ日本事件(大阪高判H18.4.14)では、家族の介護の状況を考えると不利益が非常に大きいとして、命令が権利の濫用で無効とされています。なお、出向を命じる場合も、必要性や対象者の選び方などの事情から権利の濫用と認められれば無効になる、と労働契約法第14条は定めています。
断った場合に、懲戒や解雇になるかどうかは、契約の内容、命令の必要性、本人の不利益などによる個別の判断です。ここで「断っても大丈夫」とも「断れない」とも言い切れません。看護職の異動(病棟間や、訪問看護への異動など)についての公的な事例は、この記事では確かめていないので、同じ枠組みを当てはめる読み方にとどめます。
話し合いの切り出し方と、相談先
話し合いは、「断ります」から入るより、事情と相談したいことを先に出すほうが、進みやすい場面があります。事情は、事実だけで足ります。
内示を受けて、検討しています。家族の介護の事情があり、転居を伴う勤務は難しい状況です。現在の勤務地で続けられる形や、時期をずらせる余地があるか、相談させてください。
事情と相談したいことを、先に伝える例
話し合いで折り合わないときや、会社の説明に納得できないときは、総合労働相談コーナーに相談できます。各都道府県労働局や、労働基準監督署内などに設置され、配置転換を含む労働問題が対象です。相談は無料で、予約は要りません。土日祝日と年末年始は閉庁なので、平日の日中に行きます。窓口の所在地は、厚生労働省の「総合労働相談コーナーのご案内」から探せます。
窓口の選び方は労働相談の窓口の選び方にまとめています。病棟の異動の希望の出し方は異動希望の出し方に、転勤のある職場・ない職場の見分け方は転勤なし・ありの見分け方にあります。異動を機に辞めるかどうかを考えるときは、退職の時期の考え方も見てください。
ひとりで抱えなくても、聞ける窓口があるんだね。
書類を見るところから、はじめてみよう。
よくある質問
異動を断ったら、懲戒や解雇になりますか?
断ったあとの扱いは、契約の内容、就業規則、命令の必要性、本人の事情などで個別に判断され、一般には結論を出せません。断ると決める前に、書類を確かめ、総合労働相談コーナーなどに相談します。
看護師は職種限定だから、病棟の異動は断れますか?
資格職であることだけで、職種限定になるとは言えません。採用時の合意の内容(契約書・労働条件通知書など)で変わります。限定の記載があるかどうかを、まず書類で確かめます。
子どもがいると、転勤を断れますか?
育児・介護休業法第26条は、子の養育や家族の介護が困難になる労働者がいるときに、状況へ配慮しなければならないと定めています。配慮の義務で、異動を免除する権利ではありません。事情は、日付と事実で伝えます。
出典・参考(公的な情報)
- 配置転換|裁判例(確かめよう労働条件)(厚生労働省)
- よくあるご質問(配置転換等)(大阪労働局(厚生労働省))
- 育児・介護休業法 第26条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- 労働契約法 第14条(e-Gov法令検索)(デジタル庁)
- モデル就業規則(令和7年12月版)第8条と解説(厚生労働省)
- 2024年4月から労働条件明示事項が追加されます(就業場所・業務の変更の範囲)(厚生労働省)
- 総合労働相談コーナーのご案内(厚生労働省)
法令・制度は、上の出典を 2026年10月23日 に確認して書いています。改正されることがあるので、手続きの前に、最新の内容を各窓口で確かめてください。
つぎに読む
この内容は一般的な情報で、医療的な診断や個別の助言ではありません。つらさが続くときは、公的な窓口や、かかりつけ医・産業医に話してください。